投資をしている方は、「不動産ファンド」という言葉を見かける機会が多いかもしれません。
なんとなくイメージは浮かぶけれど、詳しいことは分からない…という方が多いのではないでしょうか。
一言で「ファンド」といっても、使われる場面によって、その意味合いが異なることもあります。
この記事では、代表的な不動産ファンドの仕組みからメリット・リスクまで、シンプルかつ丁寧に解説していきます。
目次
1.不動産ファンドとは
1-1.不動産ファンドとは
代表的な意味での「ファンド」とは、複数の投資家から資金を集めて運用し、それによって得られた収益を出資額に応じて投資家に分配する仕組みのことです。
ファンドが投資する対象は様々ですが、特に“不動産”を投資対象にしているファンドが「不動産ファンド」と呼ばれます。
不動産ファンドにも、いくつか特徴があります。
特徴1:いろいろな種類の不動産に投資できる
オフィスビル、賃貸マンション、商業施設などいろいろな種類の不動産に投資できます。
ファンドとして大きなお金を動かすので、通常の個人投資家では投資が難しい不動産も投資対象となります。
たとえば、オフィスビル、モールなどの商業施設、リゾートホテル、病院、介護施設、倉庫などです。
ファンドによっては、複数の種類の不動産を対象にしたり、特定の種類に限っていたり、株式投資と組み合わせていたりすることもあります。
特徴2:運用方針が不動産ファンドにより異なる
運用方針が不動産ファンドにより異なります。
・インカムゲイン(賃料収入など定期的に得られる利益)
・キャピタルゲイン(不動産を売却したときに得られる利益)
どちらを重視しているかは不動産ファンドによって異なります。
1-2.現物不動産投資との違い
不動産ファンドと現物不動産投資との違いをまとめると下表のようになります。
不動産ファンド | 現物不動産 | |
必要コスト | 4万円~ | 数千万円~ |
流動性 | 高い | 低い |
主に運用する人 | 資産運用会社 | 投資家または委託した管理業者 |
投資対象となる不動産の種類 | 商業施設・リゾートホテル・病院・介護施設・倉庫など | マンションやアパート、1戸建てなど居住用不動産 |
融資 | 受けられない | 受けられる |
収益性 | ローリスク・ミドルリターン | ミドルリスク・ミドルリターン |
大きな違いは3つあります。
・必要コスト
・運用する人
・流動性
必要コスト
現物不動産投資との大きな違いは、必要コストです。
不動産ファンド投資は、物によっては1万円~という少額から投資することが可能ですが、現物不動産投資は、多額の現金が手元に無い限り、初期コストと数千万円のローンを背負うことになります。
運用する人
不動産ファンド投資
不動産を運用するのは資産運用会社のため、投資家は運用不要です。
現物不動産投資
投資家本人が不動産を所有し、投資家本人もしくは委託した管理会社が運用・管理します。
流動性
不動産ファンド投資は、流動性が高く、現物不動産投資は、流動性が低いです。
ここでいう流動性とは、投資した金額をすぐ現金化できるかどうかということです。
不動産ファンドは、証券所取引所に上場されており、株などと同じようにすぐ売買することができます。
現物不動産は、現金化に時間がかかります。売買に必要な書類を集めたり、買主が見つかるまでは現金化できません。
まとめ ~現物不動産投資との違い~
・不動産ファンドでは、コストをあまりかけることなく収益を見込める。
・資産運用会社が不動産運用するため、投資家の運用の手間はない。
・流動性が高いため、現金化できるまでの期間が現物不動産投資に比べて早い。
2.不動産ファンドのメリット
不動産ファンドのメリットは大きく次の2つです。
(1)少額から始められる
(2)分散投資ができる
2-1.少額から始められる
不動産ファンドは少額から始めることができます。
通常、不動産投資を始めようと思えば数千万円~数億円は必要です。しかし、不動産ファンドでは1つの不動産を複数人で購入することになるので、一人あたりに必要な金額は少額になります。
最近では1口1万円から始められる不動産投資型クラウドファンディングという投資もあります。
そのため、これから投資を始めてみようと思う方や、コストを抑えて投資を行いたい方にとって、少額から始められるというのは大きなメリットと言えます。
2-2.分散投資ができる
不動産ファンドでは、分散投資がしやすくなる点がポイントです。
現物不動産投資のように多額の資金を必要とせず、数万円から投資ができるので、分散投資がしやすくなります。
たとえば50万円の資金で投資しようと考えた場合、下記のいずれかになります。
分散投資をしない場合
・50万円すべて同じファンドに投資する
→損失が発生した場合、損失が大きい
分散投資をした場合
・50万円を5等分して、10万円ずつ5つのファンドに投資する
→損失が発生した場合でも、大きな損失は避けられる
分散投資をしない場合のリスクは、一つの投資商品に集中して投資すると、仮にその一つに損失が出た場合、出資金全体に影響がでてしまう点です。
もし分散投資をしていたら、仮にその一つのファンドに損失がでたとしても、複数のファンドにお金を分けて出資しているため、そのほかの出資金への影響はありません。
そのため分散投資ができるということは、リスクを分散する上でとても重要なポイントです。
3.不動産ファンドのデメリット
メリットもあればデメリットもあります。
不動産ファンドのデメリットは、3つです。
(1)リターンが小さい
(2)レバレッジが効かない
(3)対象物件数・銘柄数が少ない
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1.リターンが小さい
不動産ファンド投資は、リスクが低いがゆえに、リターンも小さくなります。
「ハイリスク・ハイリターン」、「ローリスク・ローリターン」という言葉があるように、投資という性質上、リスクが高いほど、大きな利益が狙え、リスクが低いと、利益も小さくなります。
不動産ファンドに投資すると、契約書を取り交わし、報告書なども送られてきます。そして、出資者の数が多いので、それだけ費用もかさみます。その費用も経費となるため、収益は圧縮されます。
また、通常の不動産投資で必要な管理費や修繕積立金、税金と同じ費用もかかります。不動産ファンドの運用コストもかかるため、自分で不動産投資をするよりもリターンは小さくなる可能性があります。
不動産ファンドは他の投資と比べて「ローリスク・ローリターン」のため、“高いリスクを冒しても、大きな利益を狙いたい“という方にはおすすめしません。
3-2.レバレッジが効かない
不動産ファンド投資は、レバレッジが効きません。
不動産ファンドは原則、自己資金のみで投資をするからです。
通常の不動産投資であれば、融資を受けて自己資金の何倍もの不動産を取得し、それを運用することになります。
同じ利回り5%でも、自己資金500万円と融資合わせて5,000万円では得られる収益の金額は25万円と250万円で全く違います。
利息を差し引いても、融資を受けた方が収益は大きくなります。
不動産ファンドではこのようなレバレッジを利用できない点はデメリットといえるでしょう。
3-3.対象物件数・銘柄数が少ない
安定した利回りで人気が高まっている不動産ファンドですが、不動産特定共同事業・不動産投資信託のどちらも、通常の不動産投資・株式投資と比べると商品数が少ないです。
運用する事業者がまだ少ないため、他の投資商品と比べると、選択できる商品が少ないと言えます。不動産特定共同事業の方はすぐに募集が終了し、投資したい物件に投資できないこともあります。
また不動産投資信託も2019年6月末時点で63銘柄しかないので、株式投資ほど自由に銘柄を選べるわけではありません。
そのため、不動産ファンドは、他の投資商品と比べると選択できる幅があまり広くないと言えます。
4.不動産ファンドの分類
不動産ファンドは、どの法律に基づく不動産投資商品を扱っているかで大きく2種類に分類されます。
(1)不動産特定共同事業法管轄のファンド
(2)投資信託及び投資法人に関する法律(不動産投資信託)管轄のファンド
さらに、
(1)不動産特定共同事業法は、その中で「任意組合型」と「匿名組合側」に分かれます。
(2)不動産投資信託は、「公募ファンド」と「私募ファンド」に分かれます。
それぞれ投資家の得られるメリットが異なってきますので、どういったメリットがあるのか詳しく解説してきます。
4-1.不動産特定共同事業法
不動産特定共同事業の許可を受けたファンドが、投資家から出資を受けて不動産投資を行い、その収益を投資家に分配します。
不動産特定共同事業は、「不動産小口化商品」と呼ばれる商品を販売することで行われます。投資家は不動産小口化商品を買い、その持分に応じて不動産からの収益を得る仕組みです。
不動産特定共同事業法は、大きく分けると「匿名組合型」と「任意組合型」の2種類に分けられます。
厳密には「賃貸型」も入れて3種類ですが、賃貸借型の商品はほとんど供給されていないため、この記事では2種類に分けて、それぞれのメリットを説明していきます。
4-1-1.匿名組合型
匿名組合型のメリット・特徴 ・所有権を持たずに不動産投資に参加できる |
業者が結ぶ契約は匿名組合契約です。
そして、投資家は組合にお金を出資し、組合がその出資金で不動産を取得して管理・運営を行います。その運用によって得られた収益が投資家に分配される点は任意組合型と同じです。
つまり、匿名組合型では不動産の所有権は事業者となります。そのため、不動産を取得・所有しているときにかかる税金の負担はありません。
不動産の登記情報上には事業者名が記載されて、投資家の匿名性が保たれるということから、「匿名組合」と呼ばれます。
不動産を所有する上での様々な税金を考えず、気軽に投資を行いたい方には、「匿名組合型」をおすすめします。
4-1-2.任意組合型
任意組合型のメリット・特徴 ・相続税・贈与税の節税対策になる |
任意組合型では、まず、投資家と事業者は任意組合契約を結びます。
そして、契約を結んだ投資家たちがそれぞれ投資対象となる不動産の共有持分を取得します。この共有持分を任意組合に現物出資する形を取り、事業者は組合の代表として不動産の管理・運営を行います。
その運用によって得られた収益が投資家に分配されます。
投資家も共有持分を購入して不動産を所有するため、登記情報上には投資家の名前が記載されます。そのため、匿名性がないという点が匿名組合型と異なる点です。
任意組合型では、実際に不動産を所有しているのは投資家です。そのため、登録免許税や不動産取得税はもちろん、毎年固定資産税などの税金も経費としてかかります。
その代わり、匿名組合型と異なり、投資家が所有権をもっているため、確定申告時の項目は、「不動産所得」となり、相続税や贈与税の節税対策として活用することもできることが、投資家にとってのメリットと言えます。
節税対策をしたいと考えている方には、「任意組合型」をおすすめします。
4-2.不動産投資信託
不動産投資信託はREIT(リート)とも呼ばれています。
REITとは Real Estate Investment Trustの略でREITと呼ばれています。アメリカにもREITの仕組みがあるため、日本ではJAPANのJをつけて、J-REITとも呼ばれています。 |
不動産投資信託は、複数の投資家からお金を集め、そのお金を使って不動産を取得して運用し、その収益を投資家に分配する金融商品です。
そのため、通常の株式投資と同じように証券市場で売買でき、流動性は高いです。
また、ほとんどの資産をオフィスビルや商業施設などの収益不動産で運用し、収益の90%超を投資家に分配するなど一定の要件を満たすことで事業者は法人税が非課税となります。このような制度があるので、配当利回りが通常の投資信託に比べて高くなりやすいことがポイントです。
そして、不動産投資信託はお金の集め方によって公募ファンドと私募ファンドの2つに分かれます。
4-2-1.公募ファンド
公募ファンドの特徴 ・証券取引所に上場している |
一般的に“投資信託”とよばれているのが、公募ファンドに分類されます。
公募ファンドは、その名のごとく、広く一般に投資家を募集するファンドです。証券取引所に上場しているので、株式投資と同じように証券会社を通じて購入・売却できます。インターネット上でも売買できます。
そのほか、金融商品仲介業者として金融庁に登録されている銀行、保険代理店、ファイナンシャルプランナーなどから不動産投資信託の申込みができます。
また、市場で売買されるため、金利や経済、不動産市況など様々な外的要因の影響を受けて、価格の変動幅が大きいです。
注意点 東京証券取引所に定める上場廃止基準に抵触し、上場が廃止された場合、投資家はその時点で売却を余儀なくされるため、その時点での価格によっては、大きな損失が発生する可能性があります。 |
4-2-2.私募ファンド
私募ファンドの特徴 ・証券取引所に上場していない |
公募ファンドは証券取引所に上場されていましたが、一方、私募ファンドは証券取引所に上場していません。
機関投資家や一部の法人など特定の投資家だけを対象とした私的な募集によって販売されます。
そして、原則、運用期間中の払戻しは認められていません。もし、運用期間中に売却したいときには、自分で買い手を見つける必要があります。
流動性・換金性の低さは現物不動産投資に近いと言えます。
5.不動産ファンドのリスク
不動産ファンドにおいてのリスクをして挙げられるのは、主に3つあります。
不動産ファンドを始めるにあたって、これからお伝えするリスクは十分に理解しておくことが大切です。
5-1.不動産の性質上、発生するリスク
1つ目が不動産自体のリスクです。
具体的には、
・空室リスク
・賃料下落リスク
・修繕リスク
・自然災害リスク
・火災リスク
です。
不動産ファンドでの主な収益は、不動産の賃料収入から配分されます。
そのため、上記のような一般的な不動産投資におけるリスクは不動産ファンドでも同じです。
当初の想定よりも空室が多くなったり、地震や津波で建物に被害が出て修繕が必要になったり、営業停止になったりすれば、その分、投資家に配分される収益は小さくなります。
5-2.不動産ファンドの仕組み上、発生するリスク
不動産ファンドという仕組み上、発生するリスクは次の3つです。
・元本割れリスク
・上場廃止リスク
・流動性リスク
元本割れリスク
まず、不動産ファンドへの投資に元本保証はありません。そのため、最終的に資産が減ってしまうリスクがあります。
これは不動産ファンドに関わらず、投資商品すべてにいえます。
上場廃止リスク
また、不動産投資信託の場合、売買は市場で行われます。したがって、上場廃止になると保有している銘柄の売却が難しくなったり、価格が暴落したりします。現状、まだ上場廃止となった例はありませんが、これから発生する可能性がゼロなわけではありません。
不動産ファンドを始めるのであれば、この上場廃止リスクも考慮しておく必要があります。
流動性リスク
そして、不動産特定共同事業や私募ファンドでは、流動性が低いというリスクがあります。自分の売却したいタイミングで買い手をみつけることが難しく、手軽に手放すことはできません。
5-3.事業者の破綻リスク
最後に、事業者の破綻リスクです。
運用の失敗やその他情勢の変化によって巨額の損失を出した場合、事業者が破綻する可能性があります。
ただし、事業者が破綻した場合でも不動産の価値がゼロになるわけではありません。
そのため、対応としては、
・不動産を精算して投資家に分配する
・他の事業者に運用を引き継ぐ
のどちらかとなります。
このとき、出資したお金が全額返還される保証はないので注意が必要です。
6.不動産ファンドへの投資の始め方・手順
最後に、不動産ファンドを始め方についてです。
6-1. 不動産特定共同事業の始め方
不動産特定共同事業の商品へ投資するときの一般的な流れは次の4ステップです。
(1)商品を探す
(2)出資の申し込み
(3)契約
(4)出資金の振り込み
6-1-1.商品を探す
不動産特定共同事業の商品を扱っている事業者を探して、そこで募集されている不動産の情報を確認します。
基本的には、資料請求やホームページから、物件の情報や最低出資額、想定利回りなどをチェックして投資したい商品を決めます。
6-1-2.出資の申し込み
商品が決まったら、出資を申し込みます。
6-1-3.契約
申込内容を確認し、通常の不動産取引と同じように重要事項説明を受けます。
そして、問題なければ契約書に署名・捺印し、契約は完了です。
6-1-4.出資金の振り込み
指定の口座に出資金を振り込みます。
ここまで手続きを進めれば、不動産ファンドを始められます。出資金を振り込むと、後日、今回の取引内容が記載された取引報告書が届きます。
契約書も合わせて、なくさないようにしっかり保管しておきましょう。
6-2.不動産投資信託の始め方
不動産投資信託は、株式投資を始める流れと変わりません。
次の3ステップで始められます。
(1)証券口座の開設
(2)証券口座へ入金
(3)銘柄を購入
6-2-1.証券口座の開設
最初に証券口座を開設します。
証券会社は複数あるので、手数料の安さやシステムの安定性、サービスの品質などから選びます。
特にこだわりがなければ、ユーザー数の多い証券会社で口座を作ればよいでしょう。
6-2-2.証券口座へ入金
証券口座を開設したあと、投資するための資金を入金します。
6-2-3.銘柄を購入
銘柄を調べて、購入するものを決めます。
そして、買い注文を出して約定すれば、銘柄を取得できたことになります。
まとめ
不動産ファンドは、少額から始められる不動産投資です。
個人では取得できないような物件にも投資でき、安定した利回りを期待できます。
投資した不動産の管理・運用は事業者が行うので、投資家の手間がかからないこともメリットです。
また、この記事で紹介したように、不動産ファンドには様々な種類があります。
それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、あなたにあった不動産ファンドを選ぶようにしてください。
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