「キャッシュフロー」という言葉は、事業だけでなく不動産投資でも使われます。
その意味はほとんど同じで、家賃などの不動産収入から、実際にかかった経費などを差し引いた、“手元に残る現金”のことです。
キャッシュフローがよければ現金に余裕があるため、安心経営につながります。そのため、不動産投資を取り組むにあたって、キャッシュフローを理解することは重要です。
それでは、実際にキャッシュフローを増やすためにはどうすればよいのでしょうか。
この記事では、不動産投資におけるキャッシュフローの意味と計算方法、キャッシュフローが重要な理由について解説したあと、キャッシュフローを増やす方法についても解説します。
目次
1. 不動産投資におけるキャッシュフローとは
「キャッシュフロー」とは、直訳すると「現金の流れ」になります。
そして、不動産投資におけるキャッシュフローとは、1ヶ月の収支から最終的に”手元に残った現金”のことです。
1-1. キャッシュフローの計算方法
それでは、実際に不動産投資におけるキャッシュフローの計算方法を紹介します。
現金の流れを表すものなので、
1ヶ月のキャッシュフロー
= 不動産収入(家賃 + 礼金などその他収入) ー 支出(ローン返済額+諸経費+税金)
となります。
このキャッシュフローの計算結果がプラスであれば、手元に現金が残り、マイナスであれば、自分のお金から持ち出しになっているということです。
ここで、家賃やローン返済額はわかりやすいと思いますが、「諸経費」は曖昧になりやすいポイントです。経費について正しい理解をしていなければ、誤った計算結果となるので注意してください。
諸経費とは具体的には、修繕費や修繕積立金、保険料、広告宣伝費、固定資産税などの税金、管理会社への委託費用など、不動産収入を得るためにかかった費用です。
原則、スーツ費用などは経費に含めません。
たとえば、
・家賃収入 9万円
・ローン返済額 6万円
・諸経費 5,000円
だったとします。
この場合、1ヶ月のキャッシュフローは
9万円ー(6万円+5,000円) =+1万5,000円
となります。
都心ワンルームの場合、このくらいあるとキャッシュフローが良い方と言えます。
1-2. 不動産投資のキャッシュフローに大小が生まれる理由
たとえ同じ価格で物件を取得し、家賃を同じに設定したとしても、キャッシュフローには大小が生まれます。それは、キャッシュフローの計算方法からもわかります。
キャッシュフローの計算方法は、実際の現金の流れをもとに
不動産収入 ー (ローン返済額 + 諸経費 + 税金)
です。つまり、
・不動産収入が多ければキャッシュフローは大きく
・ローン返済額や諸経費が少なければキャッシュフローは大きく
なります。
これがキャッシュフローに大小が生まれる理由です。
2. 不動産投資をする上でキャッシュフローが重要な理由
ここまで不動産投資におけるキャッシュフローの考え方と計算方法をお伝えしました。
それでは、どうしてキャッシュフローが重要なのでしょうか。
理由は3つです。
(1)キャッシュフローが悪いと運用に行き詰まる可能性が高くなるから
(2)キャッシュフローが良ければ諸経費も不動産収入の中でまかなえるから
(3)キャッシュフローが良ければ高額売却しやすいから
それぞれ解説します。
2-1. キャッシュフローが悪いと運用に行き詰まる可能性が高くなるから
「キャッシュフローが悪い=手元に現金が無い」状態だと、不動産運用に行き詰まる可能性が高くなります。
キャッシュフローが悪いということは、不動産投資に必要な支出を家賃収入だけではまかなえず、給与や自営業の収入で補填している状態です。つまり、不動産投資で家賃収入を得られているように感じますが、実際は毎月現金が減っています。
給与や自営業の収入が減る可能性もあり、毎月、自己資金の持ち出しがある場合、突然の退去や長引く空室、家賃の滞納などの状況の変化によっては、一気にローン返済も難しくなります。
また、キャッシュフローがマイナスではなかったとしても、ゼロに近い場合も注意してください。同様に家賃の滞納や設備の修繕対応、税金の支払いタイミングによっては、大幅にキャッシュフローがマイナスとなる可能性があります。そうなれば、不動産投資の運用にも行き詰まる可能性があります。
豊かになるために始めた不動産投資であるにもかかわらず、自分の生活レベルを下げることになり、負担になってしまっては本末転倒です。
2-2. キャッシュフローが良ければ突然の支出も不動産収入の中でまかなえる
「キャッシュフローが良い=手元に現金がある」状態であれば、突然の支出にも耐えることができます。
キャッシュフローが良いということは、収支が現金基準でプラスになっているということです。
不動産投資をしていると、故障した設備の修繕費や交換費など、予期しないタイミングで大きな支出を求められることがあります。このとき、キャッシュフローが良ければ、自己資金を減らすことなく、不動産収入の中でまかなうことができるので、健全な運営につながります。
2-3. キャッシュフローが良ければ高額売却しやすい
「キャッシュフローが良い=安定収入が見込める」ため、不動産売却時に査定価格が高く評価され、高額で売却できる可能性があります。
不動産投資の出口戦略の1つに、不動産売却があります。このとき、キャッシュフローが良ければ高額売却につながりやすいです。なぜなら、キャッシュフローが良いということは、それだけ安定した不動産経営ができていることを表します。
したがって、購入者も物件を取得したあとに同様のキャッシュフローを実現できる可能性が高いです。
収益性の期待値が高いので、査定価格も高くなり、高くても納得できる理由となるので、高額売却につながりやすいです。
3. 不動産投資ではキャッシュフローが多いほど安全経営ができる
不動産投資には、
・空室率上昇
・家賃下落
・家賃の入金の遅延
・天災による修繕費の発生
といったリスクがつきものです。
しかし、キャッシュフローが多ければ、このようなリスクが実際に起きたとしても、プラス分の収入があるため、問題なく対処できます。
そのため、不動産投資ではキャッシュフローが多いほど安全経営ができるといえるでしょう。
それでは、具体的にキャッシュフローの健全性を判断する方法と目安を解説します。
3-1. キャッシュフローの健全性を判断する方法と目安
キャッシュフローの健全性を判断する方法の一つとして、「債務返済倍率(DCR=Debt Coverage Ratio)」という指標があります。
むずかしい専門用語が少し出てきますが、できるだけ分かりやすく説明していきます。
この債務返済倍率(DCR)は、家賃収入から諸経費と税金を差し引いて算出される「営業純利益(NOI=Net Operating Income)」をローン返済額で割ることで求められます。
債務返済倍率=年間の営業純利益÷年間のローン返済額
このとき、計算結果が1.3以上であれば、キャッシュフローが健全と判断できる目安です。
また、最低でも1.2以上なければ、不動産投資用物件の購入で融資がおりないといわれています。
したがって、不動産投資を始めるときにもこの指標は役立ちます。
たとえば、表面利回り8%の3,000万円の物件を、自己資金300万円で取得したとします。
このときの想定年間家賃収入は240万円(3,000万円×8%)で、経費は不動産投資で一般的な20%と考えると48万円です。ローンの返済額は年間150万円だったとします。
この場合の債務返済倍率は、
(240 ー 48) ÷ 150 = 1.28
です。
この結果だけ見ると、1.2を上回っており、健全なキャッシュフローが期待できると判断できるかもしれません。
しかし、先ほどの例では、「ずっと満室」を前提としています。これは現実的な数字ではありません。
もし、空室率が10%になったとすると債務返済倍率は
(240×0.9 ー 48) ÷ 150 = 1.12
となり、1.2を下回ります。
したがって、キャッシュフローの観点から健全な運営ができるとは考えにくく、投資用物件としての取得はしないほうがよいと判断できます。
4. 不動産投資でキャッシュフローを増やすためにするべきこと
キャッシュフローを計算した結果、あまり良くなかったとします。
すでに不動産投資を行っている場合、「購入をやめる」という判断はできませんから、キャッシュフローを増やすための対処が必要です。
また、購入前のシミュレーションで良くない結果だったとしても、少し条件を変えるだけで、安全経営ができるキャッシュフローとなる可能性もあります。
そこで、キャッシュフローを増やすためにできる具体的な4つの方法を紹介します。
大きな方針としては、家賃収入を増やすか、ローン返済額を減らすかの2つで、具体的には
(1)頭金を多く入れる
(2)金利の低い融資を受ける
(3)ローンの返済期間を長くする
(4)空室を作らない
の4つです。
4-1. 頭金を多く入れる
1つ目は、頭金を多く入れることです。
頭金が多いほど、毎月のローン返済額を減らすことができ、キャッシュフローを増やすことに役立ちます。
たとえば、3,000万円の物件を金利2%、借入期間20年の融資を受けて不動産を取得する場合で考えてみます。
頭金が300万円だった場合、年間のローン返済額は約164万円となります。
頭金が500万円になると、年間のローン返済額は約152万円に下がります。
このシミュレーション例で試算すると、頭金を増やした結果、年間で約12万円のキャッシュフローが増えます。
出典:住友不動産販売 ローンシミュレーションをもとに試算
頭金を入れる以外にも、繰り上げ返済をしていくことも有効です。
4-2. 金利の低い融資を受ける
2つ目は、金利の低い融資を受けることです。すでに融資を受けている場合は借り換えを検討します。
たとえば、借入額が3,000万円で、頭金0円、金利を1.5%と2%で比べます。
金利が2%だった場合、年間のローン返済額は約183万です。
金利が1.5%に下がると、年間のローン返済額も174万円まで下がります。
出典:住友不動産販売 ローンシミュレーションをもとに試算
つまり、金利が0.5%異なるだけで、年間約9万円もキャッシュフローを増やせるというわけです。
そのため、不動産投資を始めるときには、ローン審査を受けようと思っている金融機関の金利も確認するようにしてください。
4-3. ローンの返済期間を長くする
3つ目は、ローンの返済期間を長くすることです。
返済期間が長い分、毎年の返済額は少なくなることがほとんどです。
同じく、借入額が3,000万円、金利が1.5%として、ローン期間が15年の場合と16年の場合で比べてみます。
ローン期間が15年の場合は、年間の返済額は224万円です。
対して、ローン期間が16年となれば、年間の返済額は211万円になります。
出典:住友不動産販売 ローンシミュレーションをもとに試算
たった1年異なるだけで、年間のキャッシュフローは13万円も変わります。
したがって、ローンを組むときには、できるだけ長い期間を設定できる金融機関を選ぶとよいです。
4-4. 空室を作らないようにする
最後は、空室を作らないようにすることです。
家賃収入は空室率と直結します。空室数が少なく、空室期間が短ければ、それだけキャッシュフローも増えます。
空室を作らないためには、
・適正家賃の設定
・退去者が出たときに適切なタイミングで新しい入居者を募集する
・適切なマンション管理で退去者を減らす
などを意識することが大切です。
また、物件の管理を委託する場合は、入居率の高い管理会社を利用することをおすすめします。
そのような会社であれば、空室を作らせない多くのノウハウがあり、頼りになるはずです。
まとめ
不動産投資においてキャッシュフローは、安全経営を行うために重要な指標です。
キャッシュフローは”実際に手元に残る現金”のことで、不測の事態が起きたときでも、自己資金を持ち出すことなく対応できる備えになります。
また、「債務返済倍率(DCR=Debt Coverage Ratio)」を活用することで、不動産投資物件として取得するべきか、現在の投資物件に対して健全な運用ができているかの判断がしやすくなります。
そのため、キャッシュフローを理解するだけでなく、この記事で紹介した安全なキャッシュフローを増やす方法を考えていくことをおすすめします。
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